【吉田恭平のスタンドプレイ 第10回】イタリアトライアウト-ミラノ編その3

父親

サッカーにこだわる理由。それは父の存在だ。

父は「プロサッカー選手」だった。
僕の地元のJリーグチームに所属し、日の丸を付けてプレーもしていた。
こんな下手くそでも、父と比べられてきた。「日本代表の息子」が、下手くその名前だった。

誤解の無いように言っておくが、父にサッカーをやれと言われた事は一度たりとも無い。期待をかけられた事もなければ、サッカーを教えてもらった事もない。

でも、その事が子供ながらに少しだけ寂しかったし悔しかった。
サッカーにこだわる理由…それは

「サッカーで父を見返したい」

ただそれだけだった。

僕は悩んでいた。

「今まで散々サッカーを避け、逃げてきたけれど、ここでサッカーを辞めたらきっと一生サッカーに追いかけられて逃げ回る事になるんだろうな」

「そんな自分自身を好きになれるだろうか?」

「そんな自分自身に、人生に、胸を張って生きていけるだろうか?」

答えは分かっていた…だが一方で。

「逃げれば楽だぞ」

「比べられる事はなくなるぞ」

「比べられる事に耐えれるのか?」

「お前は自分が下手くそなの分かってる?」

弱い自分がいた。

他人から見れば滑稽に映るだろう。でも当時は真剣に考えていたし、「誰も自分の気持ちなんて分からない」そう思っていた。誰にも相談する事はなかった。母にも、親友にも。

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