【吉田恭平のスタンドプレイ 第10回】イタリアトライアウト-ミラノ編その3

兄の存在

僕には2歳年上の兄がいる。兄は小さい頃からサッカーが大好きだった。休日は兄のサッカーの練習に付き合わされていた。サッカーも上手い。

「サッカーが大好きでサッカーが上手くて休日もサッカーばかりやっている兄」と「サッカーが大嫌いでサッカーが下手くそでサッカーの日も休日のように友達と遊んでいる弟」。

同じ環境で育ったとは思えないほど正反対の兄弟だ。
この世で唯一、同じ境遇に生まれた兄と僕。
父親が同じ唯一の存在で、気持ちを共有できる唯一の存在。

僕はいつも兄を見ていた。
サッカーを続けるか、やめるか。そう悩んでいた頃、サッカー部の見学にいった。

グラウンドには中学3年の兄がいた。
当たり前のようにサッカーをする兄。当たり前のようにサッカーを選んだ兄。
僕はそんな兄に憧れていた。僕はいつも兄を見ていた。

兄はいつも弟の僕の前を歩き、道を作ってくれた。僕は、兄の足跡を辿ってその道を歩いた。
グラウンドでサッカーをする兄を見た時、自分とサッカーを繋ぐ道の上にも兄の足跡がある事に気が付いた。

僕は決めた。

サッカーから逃げない。
サッカーと向き合っていく。

兄の存在が迷い悩んでいた僕を勇気付けてくれた。自慢の兄だ。
この決断は人生の大きな分岐点となった。

その13年後…25歳になり、今、ミラノにいる。
12歳の時のように、いつかこのトライアウトを振り返った時、誇りに思えるような時間となるようにやっていこう。

トライアウトの朝を迎えて

5月のミラノの日没は遅い。
随分遅くまで薄明るかった空は、すっかり暗くなっている。
僕も自然と眠りについた。

次に目を開けると、窓から太陽の光が差し込んでいた。いよいよ今回のイタリアトライアウトの最終日を迎えた。

吉田恭平

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